top of page

“痩せる水”の真実──特水ブームの裏側にあるもの

  • 執筆者の写真: 西園寺ケン
    西園寺ケン
  • 11月24日
  • 読了時間: 5分
たくさんのペットボトル

目次

  1. 特水ブームと“健康水”の時代

  2. HMPAという成分の正体

  3. 機能性表示食品の光と影

  4. その“水”はどこから?

  5. 生活者として、どう選ぶ?

特水ブームと“健康水”の時代


どこのコンビニでも、透明なボトルが整然と並ぶ飲料棚。その中のひとつとして、最近じわじわ存在感を増している「特水」。SNSでは「痩せる水があるらしい」「特茶より飲みやすい」などの声が飛び交い、健康志向の人たちの間でちょっとした話題になっています。


ただ、その一方で、

「本当に飲むだけで脂肪って減るの?」「透明なのに機能性ってどういうこと?」「名前がちょっと怪しいよね」

と、疑問の声も同じくらい聞こえてきます。


私たちは店頭でお客様と話していても、こうした“健康情報の過多”に戸惑う方が多いことを実感します。特に水は、毎日飲むもの。だからこそ、「なんとなく体に良さそう」で選んでしまうと、メーカーのイメージだけで判断してしまうことも珍しくありません。


特水は、本当に生活者の健康に寄り添う飲み物なのでしょうか?その答えを探るためにも、まずはその正体を丁寧に紐解いていきたいと思います。


商品棚

HMPAという成分の正体


特水の最大の特徴は、透明な見た目からは想像しづらい「HMPA(3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸)」という成分が含まれていること。

このHMPAは、米ぬかを独自の方法で発酵させて抽出したポリフェノールの一種で、サントリーが長年研究を重ねてきた素材でもあります。


■ HMPAの働き(企業が届け出ている機能)

  • 脂肪細胞の炎症を抑える

  • 脂肪蓄積のメカニズムを弱める

  • 内臓脂肪の減少をサポートする可能性


ポイントは、“脂肪を燃やす”というより

「脂肪がつきにくい状態を手助けする」

という、やわらかい性質であること。


ところが、ここで大切なのは──

✔ 試験は小規模(数十名)

✔ 臨床試験は企業主導✔ 独立した第三者研究は少ない

つまり現時点では、

「体に悪いものではない。でも決定的に脂肪が落ちるものでもない」

というのが一番正確な距離感です。


■ 安全性について

米ぬか由来の成分なので毒性は極めて低く、安全性は高いと考えられています。ただし、妊娠中・授乳中はデータ不足のため推奨されていません。また、薬との相互作用も十分な研究があるわけではありません。


私たちが店頭でお客様と話すときも、「効果を期待しすぎず、まずは“安心して続けられるか”」という視点を大切にしています。


米ぬか

機能性表示食品の光と影


次に押さえておきたいのが、特水が属している「機能性表示食品」という制度の実態です。

多くの方が誤解していますが、

❌ 機能性表示食品=国が認めた食品

これは事実ではありません。


国の審査は一切なく、すべて企業の責任で成り立っている制度。

企業が「こんな研究をしました」「この成分にこういう作用があります」と“自分で研究し、自分でデータをまとめ、国に届け出る”だけで販売できます。


つまり、

  • 国は効果を保証していない

  • 安全性も企業の自己判断

  • 都合の良いデータだけでも届出できる

  • 一般消費者は“国が認めた”と勘違いしやすい


この制度は確かに便利で画期的ですが、その反面「情報の透明性」はまだ十分とは言えません。

小売の現場に立って感じるのは、“表示された情報だけでは判断しにくい商品が増えてきた”ということ。健康に関わるものだからこそ、誤解なく伝わる仕組みづくりが必要だと強く感じます。


たくさんの資料

その“水”はどこから?──最大の盲点


成分の話以上に意外と知られていないのが、「特水のベースとなる水」の話です。

パッケージをよく見ると、こう書かれています。

水(原産地記載なし)

サントリーの天然水シリーズは必ず水源を明記します。南アルプス、阿蘇、奥大山──聞くだけで美味しそうな、あの水源です。

ところが特水には、その記載が一切ありません。


これはつまり、

✔ 特水は“天然水”ではない可能性が高い

清涼飲料水として製造されている以上、工場内の井戸水もしくはRO処理(逆浸透膜ろ過)した水であると考えるのが自然です。


RO水とは、不純物を極限まで取り除いた“超低ミネラルの純水”に近い状態。そこにミネラルを再配合したり、味の調整をしたりしながら製造します。

この製法はコーヒー飲料やスポーツドリンクと同じで、“天然水のボトリング”とは全く異なります。


もちろん、安全性が低いというわけではありません。ただし、消費者の多くは

「サントリーの透明飲料=天然水みたいに安心」

とイメージして買っているため、実態とのズレが大きい部分です。

小売店としても、“透明だから天然水とは限らない”ことは声を大にして伝えたいポイントでもあります。


貯水池

生活者として、どう選ぶ?


ここまで見てきた情報を踏まえると、特水は

「飲みやすくて安全。それでいてほんの少し健康をサポートする水」と言えます。


しかし一方で、

  • 効果は“補助的”であること

  • 天然水とは限らないこと

  • 国が効果を保証した商品ではないこと

こうした“冷静な視点”も同時に持つことが大切です。


■ こんな人には合う

  • お腹まわりが気になり始めた

  • 特茶や黒烏龍茶は苦くて続かなかった

  • 毎日の水分補給を少し健康的にしたい

  • カフェインゼロの飲料を探している


■ こんな人にはあまり向かない

  • とにかく天然水が飲みたい

  • 劇的なダイエット効果を求めている

  • 毎日150円前後の出費が気になる

  • 機能性表示食品の制度に不安がある


私たちは、店頭でお客様と接するとき、「安心して選べること」「自分に合った飲み方ができること」を何より大切にしています。

健康は飲み物ひとつで決まるものではありません。でも、“選び方”を知っているだけで、日々の習慣がぐっと豊かになります。


今日の一杯を選ぶとき、少しだけ立ち止まって、「自分にとって本当に心地よい選択はどれだろう?」そう考えるきっかけに、このコラムがなれたら嬉しく思います。


青空と水の入ったコップ

結び


生活の中には、“なんとなく体に良さそう”という情報があふれています。だからこそ、私たちは生活者として、冷静で誠実な視点を持っていたい。“確かめて選ぶ”という行為そのものが、暮らしをより丁寧にしてくれます。


bottom of page