水道水から病原性原虫が…クリプトスポリジウムとは何か
- 神宮寺レイ

- 3 日前
- 読了時間: 6分

毎日の料理、子どもの水筒、朝の一杯の白湯。当たり前のようにひねって出てくる水道水は、日本では世界トップクラスの安全性を誇ります。
でも最近のニュースを見て、「え、水道水って100%安全じゃないの?」と驚いた方も多いはず。
沖縄の西表島や鳩間島で、水道水から“病原性の原虫(クリプトスポリジウム)”が検出され、「水道水の飲用禁止」が出たという報道。普段の生活では考えられない事態です。
そこで今回は、
✔ 水道水に何が起きているのか
✔ “病原性原虫”って何?
✔ どう防げばいい?
✔ 子どもや家族のために、家庭でできる現実的な対策
を、主婦の方向けに分かりやすくまとめました。
「怖がらせたい」のではなく、“正しい知識を持って、ムダに不安にならず、必要な対策だけを知る”ことが目的です。
1. 「水道水から病原性原虫」ってどういうこと?
ニュースのポイントをひとことで言うと…
水道水の元になる川や地下水が大雨で濁り、そこに“塩素では死なない原虫”が混じってしまった可能性がある
ということです。
沖縄・西表島と鳩間島では、定期検査で「クリプトスポリジウム」という病原性原虫が検出され、水道水は1分以上煮沸しないと飲めない状態になりました。
島では緊急でタンク車で水を運んだり、ペットボトルを配布したり、大変な混乱に…。幸い、住民に健康被害は出ませんでしたが、家庭生活への影響は大きいものでした。
「え、都会は関係ないの?」と思うかもしれませんが、実は日本全国どこでも起こりうる出来事なのです。
2. “クリプトスポリジウム”とは?
ここが怖い、ここは安心、ざっくり解説

この原虫、実は目に見えない小さな寄生性の微生物。人に入ると腸に感染し、以下のような症状が出ることがあります。
水のような下痢
腹痛
吐き気
発熱
体のだるさ
健康な大人なら自然に治りますが、乳幼児・高齢者・免疫が落ちている人は重症化するリスクが高いため、決して侮れません。
しかし最大の特徴は……
▶ 塩素が効かない!
これは日本の浄水処理の弱点です。ほとんどの細菌・ウイルスは塩素消毒で失活しますが、クリプトスポリジウムは 塩素では死にません。
だからこそ、今回のような「検出されたから飲用禁止」という対応になるわけです。
ただし、いいニュースがひとつ。
▶ 沸騰すれば死ぬ!
1分以上の煮沸で不活化
70℃以上で死滅
つまり“熱にはめっぽう弱い”。この「加熱すればOK」という性質が私たちの生活を守っています。
3. 日本でも大規模感染は過去に起きていた
「日本でそんなこと起きるの?」そう思うかもしれませんが、実は過去に大規模な感染がありました。
1996年 埼玉県越生町
約8800人が感染
水道水が原因
国内史上最大の水道由来の原虫集団感染
1994年 神奈川県平塚市
約460人が感染
雑居ビルの簡易水道が原因
この事件をきっかけに日本の水道行政は大幅に改善され、以降は同規模の事故は起きていません。
でも今回の沖縄のように、「ゼロではない」ことを私たちに改めて突きつけた出来事と言えます。

4. なぜ今、水道水でこうした問題が起こるのか?
理由はいくつかあります。
■① 豪雨や台風で“濁度”が上がりやすい
最近の日本は、台風や集中豪雨が増えています。川が一気に濁ると、水源に原虫が入りやすくなります。
特に島や山間部では水路がシンプルなため、濁りの影響を受けやすい傾向があります。
■② 塩素消毒だけでは不十分なケースがある
塩素でほとんどの菌は除去できますが、原虫には効きません。“ろ過設備”や“紫外線処理”が必要ですが、全国すべての浄水場が完璧に対応できているわけではありません。
■③ 老朽化した水道管の問題
日本の水道管の約15%が耐用年数を超えています。老朽化した水源・配水施設の更新が追いつかず、リスクは決してゼロとは言えません。

5. 家庭でできる “現実的でムダのない” 対策
「じゃあどうすればいいの?」ここがいちばん知りたいところですよね。
ポイントは、過度に怖がる必要はないけれど、“知っておく”ことが大切というバランス。
順番にいきましょう。
▶ ① 怪しいときは「1分以上の煮沸」
台風直後
大雨で川がめちゃくちゃ濁っているとき
行政が注意喚起したとき
このような場面は、念のため「沸騰したお湯を冷やして飲む」だけでOKです。
▶ ② 高性能の浄水器を使う(ただし“選び方”が超大事)
クリプトスポリジウムの大きさは 4〜6μm。通常の活性炭フィルターではほぼ素通りします。
厚労省が推奨しているのは、以下のどちらか:
1μm以下のフィルター(中空糸膜など)
逆浸透膜(RO)浄水器
ただし、「浄水器なら全部安全」ではないのがポイント。
“原虫対応”と明記されているものかどうか、必ずチェックが必要です。
▶ ③ 赤ちゃん・高齢者だけは少し慎重に
健康な大人は感染しても自然治癒しますが、乳幼児や高齢者は重症化するケースがあります。
ミルクの調乳
水筒の水
食事に使う水
これらは台風直後だけでも“沸騰した水”に変えるのが確実で安心です。
▶ ④ 家族が下痢になったら「手洗い」と「熱湯」
家族内での二次感染を防ぐために:
おむつ替え後の手洗い
トイレの消毒
下着・衣類は熱湯をかけてから洗濯
これだけで感染確率はガクッと下がります。
6. 「日本の水道水は安全」。その上で“注意点だけ知る”が最強バランス
ここまで読むと「水道水怖い…」と思うかもしれませんが、誤解のないように、いちど整理します。
✔ 日本の水道水は世界トップクラスで安全
✔ 大規模な集団感染は1996年以降ほぼ起きていない
✔ ただし「大雨」「台風」など自然災害時はゼロではない
✔ だから“知っておくだけ”で十分に防げる
今回の沖縄の例は、「日常にひそむリスクを、正しく知るキッカケ」と考えるのが一番いい受け止め方です。
そして、子どもがいるご家庭や、家族の健康を守る立場にある主婦の方にこそ、こうした「根拠のある知識」を持っていただきたいのです。
7. 水の安全を守るのは、私たち生活者ひとりひとり
水道の専門家はよくこう言います。
「水道は“絶対安全”ではなく、“許容できるほど安全”であるように守られている」

つまり、ゼロリスクではなく、リスクを限りなく減らす努力を続けているということ。
でも最後に生活者としてできることは、
正しい知識を持つ
行政の情報に気づく
異変のときだけ家庭で対策する
たったこれだけ。
それだけで、家族の水の安全を、ずっと守り続けることができます。
水は生活のいちばんの基本。だからこそ、焦らず、正しく、やさしく備えていきましょう。



