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川へのポイ捨てが、私たちの飲み水に届くまで

  • 執筆者の写真: 西園寺ケン
    西園寺ケン
  • 11月15日
  • 読了時間: 4分

川中の大量ゴミ

目次

  1. 川に落ちていた“たったひとつ”のペットボトル

  2. 川へのポイ捨てがもたらす見えない連鎖

  3. 汚れた水は、私たちの体へ

  4. 子どもたちへ引き継ぐ「きれいな水」

川に落ちていた“たったひとつ”のペットボトル


休日、子どもと川辺を散歩していたときのこと。草むらの間に、ひっそりと転がるペットボトルが目に入りました。「たったこれだけで、何が変わるんだろう?」そう思いながらも、拾って持ち帰ることにしました。


けれど、後から考えると「たったひとつ」がどれほど大きな意味を持つのか、気づかされます。川へ落ちたペットボトルは、やがて風や雨に押され、海へと流れ出ていきます。そして、分解されることなく細かく砕け、何十年も自然の中を漂い続ける――。ほんの小さな行動が、見えないところで大きな影響を及ぼしているのです。


海辺に打ち上がったペットボトルと鳥

川へのポイ捨てがもたらす見えない連鎖


川に捨てられたプラスチックごみは、太陽や波の力で砕け、やがて**「マイクロプラスチック」**と呼ばれる微小な粒になります。このマイクロプラスチックは、自然界ではほとんど分解されません。そのため、一度流れ出たごみは数十年、場合によっては数百年も地球上に残り続けます。


環境省の報告によると、海洋に浮かぶプラスチックごみの約8割は、町や川など「陸から流れ出たもの」だと言われています。つまり、川辺でのたったひとつのポイ捨てが、海の生態系を脅かす原因となっているのです。


ウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて飲み込み、体内で詰まって命を落とす――そんな痛ましい例もあります。しかし問題はそれだけではありません。細かくなったプラスチックは魚や貝の体内に入り込み、やがてそれを食べる私たち人間の食卓にも戻ってくるのです。


網でせき止められるゴミたち

汚れた水は、私たちの体へ


水は地球をめぐり、私たちの暮らしへと戻ってきます。その循環の中で、汚染されたものもまた、形を変えて帰ってくるのです。


マイクロプラスチックには化学物質や環境ホルモン(内分泌かく乱物質)が付着します。これらは体内に取り込まれると、免疫力の低下やホルモンバランスの乱れなどを引き起こす可能性が指摘されています。海外の調査では、世界中の水道水の約8割から微小なプラスチック繊維が検出されたという報告もあります。ペットボトル入りのミネラルウォーターからも、微量ながら検出例が確認されているほどです。


日本の水道水は安全性が高く管理されていますが、それでも「ゼロ」にすることは難しい。つまり、私たちはすでに“目に見えない汚れ”を日常的に口にしているかもしれないのです。


さらに思い出してほしいのが、日本の公害の歴史。富山県で発生した「イタイイタイ病」では、鉱山から流れ出た有害金属が川を汚し、その水で育った農作物を食べた人々が深刻な被害を受けました。水の汚染が人の健康に直結することを、私たちはすでに経験しています。


そして今、世界では安全な水を得られずに命を落とす人が年間およそ50万人。私たちが何気なく使っている清潔な水は、実は当たり前ではない「奇跡のような資源」なのです。


浄水場の配管

子どもたちへ引き継ぐ「きれいな水」


では、私たちにできることは何でしょうか。「地球規模の問題」と聞くと、つい遠くに感じますが、実は家庭の台所からでも、水を守る一歩を踏み出せます。


  • ポイ捨てをしない・させない。 

    小さな行動の積み重ねが、未来を守る第一歩です。


  • 地域の清掃活動に参加する。 

    たとえ数本のごみでも、拾う人が増えれば景色が変わります。


  • マイボトルやマイバッグを使い、使い捨てを減らす。 

    ごみを「出さない」という選択が、もっとも強力な対策です。


  • 油や洗剤を流さない工夫をする。 

    排水もまた、川へとつながっています。油は処理剤で固め、洗剤は使いすぎないように。


  • 節水を習慣にする。 

    地球上で人が使える水は、全体のわずか0.5%。 蛇口をひねるたびに「命のしずく」を感じてみましょう。


これらはどれも、特別なことではありません。でも、その積み重ねが未来の川や海の色を変える力になります。


「このままでは、海の中の魚よりもごみの方が多くなる」――そんな警告を、私たちはもう何度も耳にしています。けれど、そうならない未来を作るのは、いまこの瞬間の私たちです。


週末にお子さんと川辺を歩くとき、「きれいな水って、誰が守ってるんだろう?」と問いかけてみてください。その答えはきっと、「みんなで守っている」になるはずです。


川で楽しそうに遊ぶ親子

結び


川へのポイ捨ては、ただのごみ問題ではありません。それは、私たちの“未来の飲み水”をどう守るかという問いでもあります。


水は、地球の血液のようなもの。流れ続けることで命を育み、つながりをつくります。だからこそ、私たちはその流れを汚さない努力を続けていきたい。


きれいな川を見たとき、心がすっと落ち着くのは、本能的に「水の大切さ」を知っているからかもしれません。その感覚を、次の世代にも伝えていけたら――。それこそが、“未来の水を守る”ということなのだと思います。

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