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ワールドカップ三都物語 ― アメリカ・カナダ・メキシコ、蛇口の向こう側をのぞいてみる

  • 執筆者の写真: 神宮寺レイ
    神宮寺レイ
  • 6月28日
  • 読了時間: 7分

サッカーの祭典を、ちょっと変わった角度から

2026年のワールドカップが、いよいよ近づいてきました。この大会は、これまでの歴史にはなかった形で開催されます。なんと、アメリカ・カナダ・メキシコの3カ国による共催です。1つの国だけでなく、北米大陸の3つの国をまたいで試合が行われる、史上初めての大会だと言われています。

どの会場でどんな名勝負が生まれるのか。どのチームが頂点に立つのか。世界中のサッカーファンが、すでに胸を高鳴らせていることでしょう。

そんな華やかな話題で盛り上がるこの機会に、私たちはあえて、少し変わった角度から3カ国を旅してみたいと思います。テーマは「水」です。

試合会場でプレーする選手も、スタンドで声援を送る観客も、誰もが必ず口にするもの。それが水です。けれど、その水がどこから来て、蛇口をひねれば安心して飲めるのかどうかは、実は国によってずいぶん違います。

同じ北米大陸にありながら、3カ国の「水とのつきあい方」はそれぞれに個性があります。今日はサッカーという楽しい入口から、ふだんはあまり意識しない「蛇口の向こう側」をのぞいてみましょう。

アメリカの都市のレストランで、氷のたっぷり入った水のグラスがテーブルに置かれている明るい情景。窓の外には街並みが見える。清潔感のある自然光


アメリカ ― 多くの都市で蛇口の水が飲める国

まずはアメリカから。広大な国土を持つこの国では、多くの都市で水道水をそのまま飲めると言われています。レストランに入れば、注文する前から氷のたっぷり入った水のグラスが出てくる、というイメージを持っている方も多いかもしれません。

ただし、アメリカは州や地域によって事情がさまざまです。水源も気候も大きく異なるため、水の硬度(ミネラル分の多さ)も土地ごとに変わると言われています。一般に、内陸の乾いた地域では硬めの水、雨の多い地域ではやわらかめの水になりやすい傾向があるようです。

水の硬度は、暮らしの中の小さなところに顔を出します。たとえば硬度の高い水でお湯を沸かし続けると、やかんやポットの内側に白い粉のようなものがたまることがあります。これはミネラル分が固まったもので、海外で暮らした方が「日本と勝手が違う」と感じるポイントの1つだそうです。

広い国だからこそ、「アメリカの水はこうだ」とひとことでは言えません。それぞれの都市が、それぞれのやり方で人々の暮らしを水で支えている。そう考えると、観戦のために訪れる街ごとに水の表情が変わるのも、ちょっと面白い旅の楽しみになりそうです。

カナダ ― 豊かな自然と、やわらかな水のイメージ

次は北のカナダへ。湖と森の国として知られるカナダは、世界でも有数の淡水の多い国だと言われています。広大な国土に無数の湖が点在し、水資源にめぐまれた国というイメージを持つ方も多いでしょう。

カナダでも、多くの地域で水道水はそのまま飲めるとされています。地域によって硬度の違いはあるものの、全体としては比較的やわらかめの水に出会いやすいという声もあるようです。

やわらかい水、いわゆる軟水は、日本人にとってなじみ深い水質です。緑茶や出汁の繊細な味わいを引き出しやすいと言われ、和食との相性が良いとされています。海外旅行から帰ってきて、家で淹れたお茶を飲んでほっとする――その安心感の一部は、水のやわらかさから来ているのかもしれません。

もちろん、カナダのように水資源が豊かに見える国でも、その水を安全に各家庭まで届けるためには、浄水場や水道管といった目に見えない仕組みが静かに働いています。豊かな自然がそのまま蛇口につながっているわけではなく、人の手による管理があって初めて「安心して飲める水」になる。このことは、どの国にも共通する大切なポイントです。

カナダの広大な湖と森の風景。澄んだ青い湖面に空が映り込み、まわりを緑の針葉樹が囲む。静かで雄大な自然の情景。明るく清潔感のある雰囲気


メキシコ ― ボトルウォーターという暮らしの知恵

そして3カ国目はメキシコ。陽気な音楽と色鮮やかな文化で知られるこの国では、水とのつきあい方にひとつの特徴があると言われています。それは、飲み水としてボトルウォーターを使う文化が広く根付いていることです。

メキシコの家庭では、大きなボトル入りの水を定期的に配達してもらい、専用のサーバーにセットして飲む、というスタイルが一般的だと言われています。レストランでも、ボトルの水が当たり前のように提供されます。

これを「水道水が飲めなくて大変な国」と受け取るのは、少しもったいない見方かもしれません。むしろ、その土地の事情に合わせて人々が編み出した、暮らしの知恵だと捉えるほうが自然です。配達サービスが発達し、生活のリズムの中にボトルウォーターがしっかり組み込まれている。それはひとつの、よくできた仕組みなのです。

国や地域によって、水を安全に手にするための方法は違います。蛇口から直接飲む国もあれば、ボトルで届けてもらう国もある。どちらが優れているという話ではなく、それぞれの暮らしに最適な形があるのだと気づかせてくれます。

メキシコを訪れる機会があれば、ぜひ現地の人がどんなふうに水とつきあっているかを観察してみてください。きっと、ガイドブックには載っていない、その国の素顔が見えてくるはずです。

メキシコの家庭で、大きなボトルをセットした水のサーバーが置かれた、色鮮やかで温かみのある室内の情景。陽光が差し込み、明るく生活感のある雰囲気


硬度の違いを、コーヒーやお茶で味わう

3カ国をめぐってきて、何度か登場したのが「硬度」という言葉でした。これは少し掘り下げると、旅でも家庭でも役立つ知識になります。

水には、ミネラル分の多い硬水と、少ない軟水があります。一般に、ヨーロッパには硬水が多く、日本は軟水が中心だと言われています。北米は地域差が大きく、その土地ごとにさまざまだとされています。

この違いは、飲み物の味に影響することがあります。たとえばコーヒーは、軟水で淹れるとすっきりと、硬水で淹れると苦みや重厚感が出やすいと言われています。紅茶も、水質によって色や香りの出方が変わるそうです。緑茶や出汁のように繊細な風味を大切にする日本の食文化は、やわらかい軟水と相性が良いとされています。

旅先で「いつものコーヒーと味が違うな」と感じたら、それは豆や淹れ方だけでなく、水のせいかもしれません。そう思って一口飲むと、いつもの飲み物がちょっとした発見に変わります。水という同じものが、土地によって違う表情を見せてくれる。これも旅の小さな楽しみの1つです。

蛇口の向こう側にある、見えないインフラ

ここまで3カ国の水事情をのぞいてきました。あらためて気づくのは、「安全な水が当たり前にある」ということが、決して世界共通の標準ではないという事実です。

日本では、蛇口をひねればそのまま飲める水が出てくるのを、当たり前のように感じています。けれどその当たり前は、水源を守り、浄水場で水をきれいにし、長い水道管を通して各家庭まで届ける、たくさんの人の働きと仕組みに支えられています。ふだんは意識されないけれど、確かに毎日の暮らしを支えているもの。まさに、見えないインフラです。

ワールドカップの試合で、選手がベンチで水を飲むワンシーン。観客がスタンドで喉をうるおす一瞬。スコアやゴールの華やかさの陰で、その水もまた、誰かの手によって用意され、運ばれてきたものです。そんな小さな当たり前に気づくと、見慣れた光景が少しだけ違って見えてきます。

私たちアールスペースは、水という足元のインフラに向き合う会社です。日々の暮らしの水をより安心して使えるようにする道具づくりにも取り組んでいます。けれど主役はあくまで、水そのものの大切さに気づくこと。道具はそのための、ささやかな脇役にすぎません。世界の水事情を知ることで、いま手元にある一杯の水のありがたさが、少しでも深く感じられたら嬉しく思います。

木のテーブルに置かれた一杯のコーヒーと緑茶の湯のみが並ぶ静かな情景。湯気が立ちのぼり、やわらかな朝の光が差し込む。穏やかで温かい雰囲気


おわりに ― 一杯の水に、ありがとうを

2026年のワールドカップは、サッカーの祭典であると同時に、3つの国の暮らしをのぞける貴重な機会でもあります。試合を楽しみながら、ふと「この国の人たちは、どんなふうに水を飲んでいるんだろう」と想像してみてください。

蛇口の向こう側には、その国ならではの工夫と、たくさんの人の働きがあります。そして日本に暮らす私たちの蛇口の向こう側にも、同じように静かな支えが続いています。

今日もどこかで、誰かが用意してくれた水が、私たちの喉をうるおしてくれています。次に水を飲むとき、心の中でそっと「ありがとう」とつぶやいてみる。それだけで、いつもの一杯が、ほんの少し特別なものに変わるかもしれません。

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